歴史的な物流危機には、データの力で立ち向かう:サプライチェーンのさらなる可視化に動く企業たち

2022.04.07

新型コロナウイルスのパンデミックに続いてロシアによるウクライナ侵攻が起き、さらに中国での市中感染が広がったことで歴史的な物流危機が訪れている。サプライチェーンの再建と最適化を迫られるなか、こうした危機が発生する原因を予測したり、問題を追跡したりする技術への関心が高まっている。

サプライチェーンは大混乱に陥り、さらに状況は悪化している。

中国の経済都市である上海では、新型コロナウイルスの市中感染が急速に拡大したことから、厳格な検査体制が敷かれている。このため、上海浦東国際空港の航空貨物倉庫が大混乱に陥ってしまったのだ。上海・寧波港では、120隻以上のコンテナ船が待機している。

中国南部に位置する製造業のハブとして知られる深圳では、同じように新型コロナウイルスの感染拡大に伴う規制が導入された後、受注残と運転手不足によりトラックの輸送コストが300%も跳ね上がった。かつて規則正しく運行されていた世界の主要港は、いまや遅延に悩まされ、過去最悪の混雑でコンテナ船が何日も列をなしている。こうした事態が世界中で起きているのだ。

供給網の混乱の早期発見が急務に

中国からロシアを経由して欧州へ鉄道で向かう予定だった100万個以上のコンテナは、ロシアに対する制裁の影響を受けて海路での移動を強いられている。また、ロシアのウクライナ侵攻により、ニッケルやアルミニウム、小麦、ひまわり油といった生活必需品のサプライチェーンが断たれ、商品価格の高騰を招いた。ウクライナ産の農作物に依存している中東やアフリカの国々は、この数週間から数カ月の間に深刻な食糧不足に陥る可能性がある

欧州の一部の自動車生産ラインでは、通常ならウクライナの工場から調達しているケーブル類が不足していることから、生産量を削減した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって商品の購入量が急増して世界のサプライチェーンに支障が生じたとすれば、ロシアのウクライナ侵攻と中国の「ゼロコロナ政策」の継続によって完全に崩壊する危険性がある。

サプライチェーンはあまりに複雑で相互に関連し合い、崩れやすい。このためパンデミックや大規模な戦争といった衝撃に耐えられる力がない。だが、現実は企業が商品を動かし続けるので、新しい戦略の採用を余儀なくされている。こうしたなか、物流の滞留や運搬機材の故障が新たな状態となり、混乱をできるだけ早く察知することがこれまで以上に重要になっている。

「以前は、まれに『ブラックスワン現象』が発生していました」と、英国のクランフィールド大学教授でサプライチェーン戦略を専門とするリチャード・ワイルディングは語る。ブラックスワン現象とは、予想が難しく起こりえないと思われていたことが急に発生した際に、非常に強い衝撃を与えるという理論だ。「いま抱えている問題は、こうした予測不能な事態が立て続けに起きていることによるものなのです」

かつてのサプライチェーンの管理には80%の予測可能な事態と、20%の予測不可能な事態に対処する必要があった。ところが、いまはこの数字が逆転しているのだと、ワイルディングは指摘する。

また、商品の流れを可視化するツールを使用する企業が増えており、潜在的な障害となるポイントを予測することも可能だという。「実質的に継続したモニタリングが必要となっています」と、ワイルディングは語る。

あらゆるものがつながっている時代において、グローバルサプライチェーンは最近まで驚くほどアナログなままだった。商品からメーカー、消費者までをつなぐ輸送ルートが乱立していたのだ。こうしたサプライチェーンは過去に管理こそできていたが、いまやサプライチェーンが常に寸断される時代となり、企業はより多くのデータを求めて躍起になっている。

ソース:歴史的な物流危機には、データの力で立ち向かう:サプライチェーンのさらなる可視化に動く企業たち | WIRED.jp