Exynos 2600、2nmで9月量産へ。Galaxy S26搭載で王座奪還なるか
2025年9月15日
Samsungの次世代SoC(System-on-a-chip)「Exynos 2600」が、今月末にも2nmプロセスで量産を開始する見通しのようだ。来年初頭に登場するGalaxy S26シリーズへの搭載が確実視されており、長らく性能問題に苦しんだExynosの逆襲が現実となるかもしれない。果たして、長年の不振を乗り越え、宿敵QualcommやAppleに比肩する性能は実現するのだろうか。
遂にベールを脱ぐ「Exynos 2600」、9月末量産開始が確定的に
Samsung Electronicsが次世代スマートフォン用プロセッサ(AP)「Exynos 2600」の開発を完了し、2025年9月末から量産体制に入ることが複数の情報源から明らかになった。
Exynosの名を聞いて、過去の苦い記憶が蘇るユーザーも少なくないだろう。かつて一部のモデルでは、競合であるQualcommのSnapdragonプロセッサ搭載機と比較して、性能不足や深刻な発熱問題が指摘されてきた。その結果、信頼は揺らぎ、Samsungは「Galaxy S23」や「Galaxy S25」シリーズでExynosの採用を見送り、全量をSnapdragonに切り替えるという苦渋の決断を下した経緯がある。
しかし、2年の雌伏の時は無駄ではなかった。Exynos 2600は、Samsungの最先端技術を携え、フラッグシップの舞台へと帰還を果たす。これはSamsungのモバイル事業、そして半導体事業全体にとって、まさに威信を賭けた再挑戦なのだ。
ベールを脱ぐExynos 2600、その性能と技術的革新
Exynos 2600が注目される理由は、単に「最新チップ」だからではない。その中身には、競合を凌駕しうるポテンシャルと、過去の弱点を克服するための明確な意志が込められている。
Snapdragonと肩を並べる衝撃的なベンチマーク
既にベンチマークテスト「Geekbench 6」のテスト結果がリークされているが、その結果は恐らく多くの人々の予想を裏切る物だろう。Exynos 2600と目されるチップは、シングルコアで3309ポイント、マルチコアで11256ポイントという驚異的なスコアを記録したのだ。
これは、同じくGalaxy S26シリーズに搭載されると見られるQualcommの次世代チップ「Snapdragon 8 Elite Gen 5」(一部ではGen 2とも報じられている)のスコアとほぼ互角の性能である。 さらに特筆すべきは、マルチコア性能において、Appleの最新チップ「A19 Pro」(9,796ポイント)をも上回る結果を示したことだ。 長らく「SnapdragonやApple Aシリーズに劣る」とされてきたExynosが、純粋な処理性能でトップ戦線に躍り出た瞬間と言える。
この飛躍的な性能向上について、Samsung社内でも自信を深めているようだ。伝えられた内部会議では、経営幹部が「Exynos 2600は前作(Exynos 2500)より性能が格段に優れている」と強調したと伝えられている。 システムLSI事業を率いる朴容仁社長も、公の場で「順調に準備しており、良い結果が出るだろう」と成功への確信を覗かせている。
成功の鍵を握る2つのコア技術:2nm GAAとHPB
この性能爆発を支えているのが、2つの革新的な技術だ。
一つは、Samsung Foundryが世界に先駆けて量産に挑む「2nm GAA(Gate-All-Around)」プロセスである。
GAAとは、電流が流れるチャネルの周囲ゲートを配置するトランジスタ構造のこと。従来のFinFET構造が3面でしか電流を制御できなかったのに対し、GAAは4面すべてで制御できるため、電流のリークを劇的に削減し、電力効率と処理速度を飛躍的に向上させることが可能になる。これは、単なる微細化競争の一歩ではなく、半導体の基本構造そのものを進化させるパラダイムシフトだ。Exynos 2600は、この最先端技術が初めてスマートフォン向けプロセッサで商用化される事例となる。
もう一つの鍵は、長年の課題であった発熱問題に対する Samsungの回答、「HPB(Heat Path Block)」だ。
これは、半導体パッケージの内部に銅を主材料とする放熱板を組み込む、革新的な熱管理ソリューションだ。プロセッサ(AP)とメモリ(DRAM)の間にこのHPBを配置することで、チップから発生する熱をより効率的に拡散・放熱させ、高負荷時でも安定したパフォーマンスを維持することを目指す。過去の失敗から学び、弱点を根本から断ち切ろうという強い意志の表れだ。
乗り越えるべき壁:歩留まりとの静かなる戦い
どれほど優れた設計でも、それを安定して大量生産できなければ意味がない。最先端の2nm GAAプロセスにとって最大の障壁は「歩留まり」、すなわち生産したチップのうち良品として出荷できる割合である。
情報によれば、2025年初頭の段階でExynos 2600の2nmプロセスの歩留まりは30%程度だったという。 その後、数ヶ月の改善を経て現在は50%レベルまで向上し、年末までに70%の達成を目標に掲げているとされる。
この70%という数字は、Samsungにとって極めて重要な意味を持つ。なぜなら、最大のライバルである台湾のTSMCは、同じく2nmプロセスで既に60%を超える歩留まりを達成していると見られているからだ。 顧客の信頼を勝ち取り、ファウンドリ市場での競争力を確保するためには、目標達成が絶対条件となる。Galaxy S26という巨大な需要を安定して満たすためにも、生産現場では今まさに、静かだが熾烈な戦いが繰り広げられているはずだ。
Samsung帝国の未来を占う「三位一体」の戦略
Exynos 2600の成功は、単一事業部の勝利に留まらない。Samsungという巨大帝国を構成する主要な3つの事業部(MX、System LSI、Foundry)すべてに、計り知れない恩恵をもたらす可能性がある。
MX事業部:コスト削減とサプライチェーンの掌握
スマートフォン事業を担当するMX(Mobile eXperience)事業部にとって、自社製チップの比率拡大は、長年の悲願だった。QualcommからのAP調達コストは年々増加しており、2025年上半期には前年比で約29%も膨れ上がった。 Exynos 2600を大規模に採用することで、この巨額の部品コストを大幅に削減し、収益性を改善できる。 さらに、外部への依存を減らすことは、サプライチェーンの安定化と製品開発の自由度向上にも直結する。
System LSI事業部:失地回復と設計能力の証明
Exynosを設計するSystem LSI事業部にとっては、まさに名誉挽回の舞台だ。自社のフラッグシップモデルに再び心臓部を供給することは、技術者たちの士気を高め、世界トップレベルの半導体設計能力を内外に示す絶好の機会となる。 ここでの成功は、他のモバイル機器や車載向け半導体など、新たな市場を開拓する上での強力な武器となるだろう。
Foundry事業部:信頼回復と巨大顧客獲得への布石
半導体の受託製造を担うFoundry事業部にとって、Exynos 2600は「世界最高のショーケース」だ。 自社製品で2nm GAAプロセスの性能と安定性を証明できれば、それは何より雄弁な営業ツールとなる。Apple、NVIDIA、Teslaといった巨大テック企業からの大規模受注を獲得するためには、技術力への信頼が不可欠。Exynos 2600の安定供給は、TSMC一強とされるファウンドリ市場の勢力図を塗り替えるための、重要な布石となり得る。
Exynos 2600は「真のゲームチェンジャー」となり得るか
すべてのピースが、あるべき場所にはまろうとしている。Exynos 2600は、長年の課題であった性能と発熱の問題を技術革新で克服し、競合と互角以上に渡り合えるポテンシャルを示した。これは、Samsungが自社の垂直統合モデルの強みを最大限に発揮し、半導体から最終製品まで一気通貫で市場をリードしようとする野心的な戦略の核だ。
しかし、勝利を確信するのはまだ早い。ベンチマークスコアはあくまで理論値であり、最終的なユーザー体験は、実際のデバイス上での持続性能、バッテリー消費、そしてソフトウェアとの最適化にかかっている。Galaxy S26シリーズでは、一部モデルや地域によってSnapdragonとExynosが併用される戦略が復活する可能性も指摘されており、その場合、両者の間に体感できる差が生まれないかが厳しく問われることになるだろう。
それでもなお、Exynos 2600の登場が2026年のスマートフォン市場、ひいては半導体業界における最大の注目点であることは間違いない。
来るGalaxy S26の発表は、ここ数年の新製品発表会とは全く異なる意味合いを持つだろう。それは、苦難の末に技術の粋を結集させたExynosが、再び王座に返り咲くことができるのかを問う、運命の審判の日となるからだ。
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