米国商務省が半導体メーカーに要求していたデータアンケートに TSMC、サムスン、SKハイニックスが素直に回答した理由とは
2021-12-23
米商務省ジーナ・ライモンド(Gina Raimondo)長官は、半導体チップメーカー及びサプライチェーン企業は11月8日までに「自発的に」生産に関するデータを提出したと述べた。台湾、韓国数十のメーカーは、いずれも期限内に提出済みで、ウェハファウンドリ製造における世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)は、顧客情報が流出しないよう対応しながら、早期段階で米国側の要求に応えたと語った。
機密事項は外部に漏れないのか?
ライモンド商務省長官は「ロイター」に、2週間かけて韓国サムスン、TSMC、SKハイニックスなどを含む半導体産業のCEOに通知したと語った。また、各企業は大量かつ完全なデータの提供を保証しており、いずれも協力的だったと話している。
今年9月、米商務省は国家の基盤を揺るがす「シリコンウェハ不足」問題を解決するため、自動車メーカー、半導体メーカー、その他の企業にこのような要求を行った。米国商務省は、いずれもサプライチェーンの透明度を高めるためと強調している。
本サイトがインタビューした新竹サイエンスパークの半導体業界関係者は、以下のように語っている。現在、自動車1台に必要なウェハは約30〜40種類、電気自動車になると少なくとも150種類が必要となる。「タイヤ、ガラス、バンパー、スプリング、電子機器をすべて工場に送り、作業員の組立も終わっている。しかし『ウェハ』が一つでも欠ければ出荷ができない」と語っている。
自動車産業は、技術や資本が集約されておりその産業チェーンは巨大で、非常に広範囲にわたって影響がおよぶ。事実、1台の自動車は約3万個のパーツで構成されている。業界関係者は「この3万個あまりのパーツは、いずれも一つひとつの産業を代表している。現在、そのどれもがウェハの問題で滞ってしまっている」と強調する。
各国は米国が各大手半導体メーカーに資料の提出を求めたことに疑問を呈している。韓国産業通商資源部(South Korea’s Trade Ministry)は10月6日、求められるデータの範囲は幅広く、機密事項も含まれている。これが外に漏れれば、韓国にとって大問題だと語っている。
各国が声を上げても、米国の強硬な姿勢は変わらない。「これは国家(米国)の安全保障にとって極めて重要な問題である」とライモンド長官は強調する。
11月8日の最終期限までに、台湾のTSMC、韓国のサムスン、SKハイニックスなどを含む十数社が資料を提出している。韓国メディア「Pulsenews」は報道で、世界の半導体メーカーと関連組織のうち23団体が、11月7日までに関連資料を米国商務省サイトにアップしたと伝えている。また、サムスン、SKハイニックスは8日の締切直前に提出したとのこと。
気になるアンケートの内容とは?
TSMCの劉徳音(Liu Deyin)会長は以前、以下のように語っていた。「サプライチェーンで半導体チップ(車用)の買いだめの動きがある」。半導体チップ不足問題が日に日に深刻化するのを反映し、企業の買いだめの噂が広がり、業者間の信頼が失われている。米商務省は、顧客からもたびたびサプライヤーからの回答が得られないとの声があり、各業者から正当な資料を提供してもらい、現在の問題を解決する必要があると指摘している。
アメリカ連邦政府官報「U.S. Federal Register」によると、10月にwebサイトで発表した26問のアンケートは、それぞれ13問ずつ大きく2部に分けられているという。1部はIC設計、フロントエンド/バックエンドウエハ製造、パッケージテスト業者、半導体販売業者、もう1部は半導体製品、ウェハの中間及びエンドユーザーである。
半導体業者のアンケート部分前半の内容は、財務報表から把握することができる。その企業を中心とした半導体サプライチェーンの役割、提供できる半導体製品、製造ノード、半導体材料、生産設備と過去3年の実際の年間売上高または年間推定売上高だ。
後半部分は、顧客がこれまでに突然、注文を取り消したことがないか、出荷に関する問題をたずねるもので、さらにこの問題を説明するよう要求している。またサプライヤーが直接、または販売業者などを通じて半導体業者から買い付けていないかなどをたずね、サプライヤーチェーン内でのウェハの流れを明らかにしようとしている。
アメリカの思い切った要求に対し、台湾の半導体メーカーは資料を提出した。王美花経済部長は11月8日、経済部とメーカーは密接に連係しているとして、これは「自発的なこと」であることを再度強調した。彼女はまた、以下のように説明している。「資料が機密に及べば、メーカーは自ら保留するだろう。アンケートでどの資料を提出するのか、政府は関与しておらず、どんな資料なのかを知ることはふさわしくない」。
業界関係者は、半導体業界には川上(製造)と川下(パッケージテスト)があり、いずれも品物があるだけ販売する。買いだめは難しい。買いだめは品物を人に渡さないことになり、当然稼ぐことはできず、財務に支障が出る。
同関係者は次のように分析する。すなわち、ウェハがパッケージテストからエンドユーザー(組立)に届くまでの間を特に明らかにする必要がある。各大手メーカーは急ピッチで作業を進めており、コロナ感染状況も緩和し交通の流れも大分スムーズになっている。「ウェハ不足」問題がこのまま悪化するはずがない。
台湾の「聯合報」は、業界関係者の認識を引用している。アンケートの内容は国際法の遵守と企業秘密保護の両方に合致している必要がある。でなければアメリカ当局が意図するサプライチェーンの透明化に協力できない。アンケートの内容は空白を残してもいいが、その必要はない。台湾メーカーは1年以上全力で世界の車用サプライチェーンに協力しており、自動車メーカーが台湾メーカーに責任を負わせる必要はなくなっている。この調査によって、多かれ少なかれサプライチェーンが引き起こした問題の責任の所在が、明らかにできるとしている。
同紙はさらに、以前、車用サプライチェーンの調整にあたり、欧米の自動車メーカーは深手を負っていたが、韓国系自動車メーカーの現代自動車(HYUNDAI)や起亜(KIA)などは、影響を受けていなかったとしている。背後に韓国系半導体メーカーの優先的なサポートがあったことが一つの要因であると指摘している。
ソース:米国商務省が半導体メーカーに要求していたデータアンケートに TSMC、サムスン、SKハイニックスが素直に回答した理由とは – The News Lens| アジアから見る日本のすがた