がらりと変わったiPhone 14の内部構造、「修理する権利」を意識か

2022.09.16

「おお、なんだこれは。これまでとぜんぜん違うじゃないか」――。毎年、新型「iPhone」の分解に立ち会ってきた記者が驚きの声を上げた。米Apple(アップル)が2022年9月16日に発売した「iPhone 14」のディスプレー部をこじ開けると、これまで見たこともないような濃紺色の金属プレートが全面を覆っていたからだ(図1)。

2021年に発売された「iPhone 13」シリーズまでは、ディスプレー部を開けるとすぐに、メイン基板やLi(リチウム)イオン2次電池などの主要部品が姿を見せた(図2)。ところが、iPhone 14では、ディスプレー部を開けても金属プレートが見えるだけだったのである。

図1 「iPhone 14」を分解し、ディスプレー部を開けた様子
図1 「iPhone 14」を分解し、ディスプレー部を開けた様子
ディスプレー部とメイン基板などをつなぐフレキシブル基板のコネクターは、金属プレートに開いた穴から簡単に取り外すことができる(写真:日経クロステック)
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図2 前機種「iPhone 13」を分解した際にディスプレー部を開けたときの様子
図2 前機種「iPhone 13」を分解した際にディスプレー部を開けたときの様子
(写真:加藤 康)
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「さてどうやって金属プレートを取り外そうか」

ディスプレー部を開けて見えた金属プレートは、簡単に取り外せるようなものではないようだ。境目を確認するべく、ケースのふちにこびりついたディスプレー部用の接着剤を、マイナスドライバーで削り取ってみる。すると、金属プレートはきょう体のフレームと一体化していた。つまり、この金属プレートはスマートフォンのセンターパネルなのである。

センターパネルを用いて、メイン基板などの主要部品とディスプレーを分ける構造は、他社のスマートフォンではよく見られる。しかし、歴代のiPhoneを分解してきた記者の記憶では、このようなセンターパネル構造を採用したモデルはなかった。

メイン基板や2次電池などの主要部品へは、背面カバーを外すことでアクセスできた(図3)。背面カバーを開けるとメイン基板や2次電池が姿を現す(図4)。これらの主要部品の配置は、iPhone 13と類似していた。ただし、部品は背面パネルにではなく、センターパネルに接続されていた。

図3 iPhoneの背面にピックを差し込めるのは新鮮な体験
図3 iPhoneの背面にピックを差し込めるのは新鮮な体験
(写真:日経クロステック)
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図4 背面カバーを開けた様子
図4 背面カバーを開けた様子
これまで分解してきたiPhoneの内部構造と類似しているが、背面カメラのレンズ側が見えているのは少し意外感があった(写真:日経クロステック)
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このセンターパネル構造は修理には最適だ。ディスプレーを交換したいときは、他の部品やケーブルを傷つけることなくディスプレー部を取り外せる。2次電池を交換したいときは逆にディスプレーを破損させることなく、背面カバーを取り外して交換できる。従来の構造だと、2次電池を交換するには割れやすいディスプレーを慎重に外す必要があった。

この内部構造の変化は、「修理する権利」を意識したものだとみられる。21年に米連邦取引委員会(FTC)が「修理する権利」に関する法律の施行を決定した。これに対応するためAppleは、iPhoneの一部機種の交換部品を、22年から個人に販売すると発表している。

iPhone 14シリーズ4機種のうち、iPhone 14と同14 Plusが前機種(iPhone 13)と同じ「A15 Bionic」を採用しているのは、今回の設計では性能向上と構造の変更という二兎(と)は追わず、構造の変更という一兎に絞ったからかもしれない。

3機種を即日分解、構造変化はスタンダードモデルのみ

日経クロステック編集部では、新型iPhoneが発売されるたびに分解して内部構造を分析してきた。今年も同様に、先行して発売されたiPhone 14、「同 Pro」、「同 Pro Max」3機種を購入し、即日分解した(図5)。

結論を述べると、3機種のうちiPhone 14 ProとiPhone 14 Pro Maxは、センターパネル構造を採用しない従来通りの構造だった。スタンダードモデルのiPhone 14だけが、これまでと全く異なる内部構造になっていた。なお、Pro系の2機種についても興味深い点があったので、次回以降の記事で紹介する。

図5 入手した新型「iPhone 14」シリーズ3機種の外観
図5 入手した新型「iPhone 14」シリーズ3機種の外観
左から順に、「iPhone 14」、「iPhone 14 Pro」、「iPhone 14 Pro Max」。すべて日本向けモデル。2022年10月7日発売の「iPhone 14 Plus」はまだ入手できていない(写真:日経クロステック)
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では、iPhone 14の構造の話に戻ろう。顔認証の「Face ID」機能などにも利用されるフロントカメラや、背面カメラなどの各モジュールが、取り外しやすく配置されていた。全体でネジの種類は多数あったものの、複雑な構造にはなっておらず、必要なネジさえ外せば、個別の部品をスムーズに取り外すことができた(図6、図7、図8)。

図6 フロントカメラモジュールを取り外した様子
図6 フロントカメラモジュールを取り外した様子
(写真:日経クロステック)
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図7 背面カメラモジュールを取り外した様子
図7 背面カメラモジュールを取り外した様子
(写真:日経クロステック)
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図8 上部スピーカーやUWB用アンテナなどを取り外した様子
図8 上部スピーカーやUWB用アンテナなどを取り外した様子

2次電池の取り外しも非常に簡単に

これまでのiPhone分解で手ごわかったのは、2次電池を取り外す作業である。2次電池の裏面にケースと接着している両面テープがあり、2次電池の外側に飛び出ている両面テープの端を慎重に引っ張れればきれいに取れるのだが、これが意外と難しく、途中で両面テープがちぎれてしまうことが多かった。

iPhone 14も同様に両面テープ式になっているが、両面テープの素材が従来と変更されたのか、センターパネル部分に両面テープ用のくぼみが用意されているからか、簡単に最後まですんなりと引っ張ることができた(図9、図10)。これならば個人ユーザーが電池交換するのも容易になるかもしれない。

図9 2次電池を接着している両面テープを引っ張って剥がしている様子
図9 2次電池を接着している両面テープを引っ張って剥がしている様子
計2本の両面テープが貼られていた(写真:日経クロステック)
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図10 2次電池を取り外した様子
図10 2次電池を取り外した様子
センターパネルの2次電池が貼り付けられていた部分には、両面テープ用に2本分のくぼみがあった。2次電池の定格容量は3279mAhで、メーカーは漢字で新普科技(台湾SIMPLO TECHNOLOGY)と記載されているほか、並んで「Huapu Technology (Changshu) Inc.」(中国常熟・太普電子)との記載もあった(写真:日経クロステック)
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メイン基板も、ネジとフレキシブル基板のコネクターを外していくだけですんなりと取り外すことができた(図11)。メイン基板の形状は外観上iPhone 13のメイン基板とほぼ同じだが、実装されているICの細かい配置は変更されているとみられる(図12)。

図11 メイン基板を取り外した様子
図11 メイン基板を取り外した様子
(写真:日経クロステック)
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図12 iPhone 14とiPhone 13のメイン基板を並べた様子
図12 iPhone 14とiPhone 13のメイン基板を並べた様子
写真左がiPhone 14、写真右がiPhone 13。写真上部が背面カバー側の面で、写真下部がディスプレー側(センターパネル側)の面(写真:日経クロステック)
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このほか、iPhone 14 Proと同Pro Maxではきょう体側面に樹脂製のスペーサーがあったが、iPhone 14にはスペーサーがなく、薄いプレートが取り付けられているだけだった。この部分は、米国向けモデルで5G(第5世代移動通信システム)のミリ波用アンテナが配置されている場所で、日本向けモデルでは従来機種でも樹脂製のスペーサーが配置されていた(図13)。

分解後に主な部品を並べてみた(図14)。iPhone 14 Proと同14 Pro Maxは前述したようにセンターパネル構造ではない。iPhone 14が前世代のA15 Bionicを搭載している点からも、まずはProではないiPhoneにセンターパネル構造を先行的に導入したということだろう。Appleが「修理する権利」への対応を重視しているとすれば、来年以降の新型iPhoneがセンターパネルを採用した構造に統一される可能性は高い。

図13 ミリ波用アンテナの隙間を埋める樹脂製のスペーサーはiPhone 14には搭載されていなかった
図13 ミリ波用アンテナの隙間を埋める樹脂製のスペーサーはiPhone 14には搭載されていなかった
(写真:日経クロステック)
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図14 分解したiPhone 14の部品を並べた様子
図14 分解したiPhone 14の部品を並べた様子